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大阪高等裁判所 昭和27年(ラ)82号 決定 1952年9月16日

抗告人 山口吉次

右代理人弁護士 中井一夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、抗告人は昭和二十七年五月三十日山口四郎兵衛及びその妻京子と養子縁組したが、同家は御所の坊と称する由緒ある宿坊で家憲として主人は代々四郎兵衛を襲名し、家令は通称吉なる名を襲名して通称吉ちやんと呼称して今日に至つている。抗告人の名も吉次であるので、親族同業者間で吉ちやんと頭字だけ呼称する風習があるから、同一家屋内に居住する者の間にはいずれを呼んでいるか判明に苦しみ、日常著しく不便を感じているので、抗告人の名を清展と改めるため許可を求めたところ、原審判は抗告人が将来多分に四郎兵衛を襲名するであろうと思われるが、同一人が二度も戸籍の名を改名することは認められぬし、抗告人がその呼名を清展と改め戸籍上の名をその儘にしておけばよいと説示するが、同一人が二度以上の戸籍上の名を改めることについて法律上何等制限がなく、正当の事由がある以上二度以上の改名も許容せられるべきであり、抗告人がその呼名を清展と改めればよいというのは、一般に呼名を用いる風習を助長せしめ、本名の外に呼名を使わせる変態現象を生ぜしめ、延いては社会生活及び法律生活を錯綜せしめる結果となり、常に氏名を単一にしておく戸籍法の精神に反するものであつて、原審判は失当であるからこれを取り消し、抗告人の名吉次を清展と改めることを許可する旨の裁判を求めるというのである。

然れども戸籍法第一〇七条第二項に規定する名の変更についての正当な事由とは、(一)同姓同名の者があつて改名許可申立人が改名しないときは社会生活上多大の差支を来たす場合、(二)改名申立人の名に社会生活上著しく支障を生じる程度に珍奇ないしは著しい難解難読の文字を用いた場合等であると解すべきところ、抗告人主張のような事実は右の場合に該当せず、その云うところは結局抗告人の呼名が同一家屋内に居住するものの呼名と同一であるため、その判別が困難で日常著しく不便を感ずるというのであるが、呼名が同一であるからと云つて戸籍上の名を改めたいというが如きは改名について正当な事由があるとはいわれないので、本件申立を却下した原審判は正当であつて、本件抗告はその理由がないので主文のとおり決定する。

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